
近年,地球温暖化やエネルギー問題の解決を目指し,脱炭素化を実現するために再生可能エネルギーの普及が急速に進んでいます。これに伴い,発電エネルギーの効率的な利用を可能にする蓄電池の導入も増加しています。エレクトロニクス事業部は約10年前から双方向DC/DCコンバータの開発に取り組んでおり,あらゆる蓄電池や直流グリッドの電圧に対応可能な「IBC5000」を製品化しました。
IBC5000は広範囲の入出力電圧と負荷範囲においてZVS(ゼロボルテージスイッチング)動作を実現する制御技術を搭載しており,エネルギー変換効率を最大限に引き上げることが可能です。
さらに,再生可能エネルギーを活用した直流給電システムの大規模化に応じた新たなニーズに応えるため,IBC5000をベースに更なる技術改良を施し,変換効率98%を超える10kW双方向DC/DCコンバータ「IBC10000」を開発しました。IBC10000は直列接続が可能で,DC150~1,350Vの超ワイドレンジに対応し,より効率的かつ柔軟な運用を実現します。
IBCシリーズは蓄電池と直流グリッド間の電力融通に加え,EV充放電器(V2H)にも使用されていますが,双方向技術の応用先としてEVをモバイルバッテリーとして活用したEV連携製品(POCHAシリーズ)を展開し,用途の拡大を模索しています。2024年度にはEVユーザーの利便性を向上させるため「POCHA V2V」(EV同士を直接接続する充放電装置)と「POCHA LiB」(CHAdeMOインターフェイス規格適合EVバッテリーパック)の販売を開始しました。これにより,電欠への不安解消を図ると共にロードサービスにおける時間とコストの削減に貢献しています。
さらに,災害時においてEVを活用してBCP対応が可能な「POCHA+」の開発を進めています。POCHA+は双方向DC/DCコンバータに加え,双方向インバータを搭載し,平常時はEV急速充電器として機能しながら,災害時はEVから三相交流電力を供給することで,多様な施設でエアコンやポンプ,冷蔵・冷凍庫などの重要機器の稼働を維持する役割を担います。
わたしたちは,双方向技術を活用することで,再生可能エネルギーを使用したエネルギーマネージメントシステムの普及を促進しています。また,EVの普及を後押しし,走行時に二酸化炭素を排出しないモビリティ社会の実現に貢献していきます。
コンポーネント事業では,複写機・プリンタ・ATMなどの事務機器や金融機器における印刷紙フィード機構や重送防止機構として,ワンウェイクラッチやトルクリミッタを開発・製品化し,幅広いニーズに活用されております。しかし,昨今はペーパーレス化やキャッシュレス化が潮流となり,これらの市場のニーズは縮小傾向にあります。このため,事業を継続し,成長していくためには,新たな市場の開拓や新機能の開発が不可欠です。このような状況に対応するため,当事業部門は二つの開発方針を掲げています。これまでの技術を活かしながら,変化する市場に柔軟に対応し,成長が見込める分野への取り組みを強化していきます。
一つ目の開発方針は,当部門のコア技術ともいえる,滑りや摩擦,摩耗の現象をより深く理解し,軸受け部品における精度と信頼性を追求する『トライボロジー技術の深化』です。電動化の進展により100年に1度の変革期と言われる自動車などのモビリティ市場では,車内外ユーティリティーにおいても電動化が進み,バックドア・スイングドア・車内モニター・サンルーフ・チャージポートドアなどの動作安定化機構・定位置保持機構・安全機構として精密機構部品の需要が高まっております。モビリティ市場では,事務機器・金融機器などの従来市場と異なり,高負荷長寿命化や静音化・内部隙間軽減などの高い性能・品質が要求されております。これら市場ニーズに対応するため,軽量高強度摺動材料の探求やグリースレス技術の追求,新しい機構の開発といった研究を推進し,事務機器・金融機器などで培ったトライボロジー技術のさらなる深化に努めると共に,品質安定化やコスト競争力向上のため,生産ラインの自動化・効率化を積極的に進めております。
二つ目の開発方針は,これまでの精密機構部品技術にセンシング技術や動作制御技術を組み合わせた『複合化ユニットの開発』です。食の安全・安心に対する要求の高まりを背景に,食品検査機器市場では微生物検査をはじめとする検査の迅速化や省人化が進められております。このニーズに応えるため,微生物の有無を高精度・短時間で判定する新たな検査手法に適用できるセンサーの研究を始めています。センシング技術の開発を通じ,部品事業としての新たなコア技術の獲得を目指しています。
また,これまで得意とする精密機構部品技術にモータ制御技術や装置設計技術を取り入れ,静音化やメンテナンス性向上を図った食品検体粉砕装置(ホモジナイザー)の開発にも取り組んでおります。『複合化ユニットの開発』では,センシング技術・動作制御技術などの新たなコア技術を獲得すると共に,それらを組み合わせた装置の開発・提案を行うことにより,部品メーカのみに留まらない,業容拡大を目指しております。
以上の二つの開発方針により,製品の付加価値をさらに高めるだけでなく,社会が求める新たなニーズに対応し,お客様に必要とされる事業の実現を目指してまいります。


メカトロニクス事業では,これまで培ってきた多様な技術を基盤に,革新を重ねながら新たな製品開発を推進しています。
還元剤としてギ酸を用いるギ酸還元真空リフロー炉は,低温での高効率な還元,高品質なはんだ付け,フラックスレスによる工程削減など,幅広いニーズに応える技術を備えた製品です。その中でも多数のチャンバーを搭載することでインライン対応やタクトタイムの短縮を実現した「MPXシリーズ」は市場の高い評価を受けており,さまざまな生産現場で活用されています。先端半導体パッケージ向けに対応した「MPWシリーズ」や,PLP(Panel Level Package)に適応する「MPPシリーズ」の開発も進めており,今後市場投入し,先進的な半導体製造プロセスに貢献することを目指しています。さらに,リフロー炉にX線検査システムを組み込む複合装置の開発も進めており,はんだ濡れやボイド率の管理から生産品の迅速な合否判定を可能とし,確かな品質保証を実現します。
また,技術応用の一例として,汎用性と利便性を追求した小型貼合装置「デスクトップラミネーターLamico」を開発しました。Lamicoは,既存の専用機であるディスプレイ貼合装置(オプティカルボンディング)の開発で培った精密塗布技術や無気泡貼合技術を応用した装置であり,多様な用途での活用を模索しています。例えば,実験や開発の現場では,従来の手作業による貼合工程を置き換えることで,作業者間の品質のばらつきを解消し,安定した結果を得ることが可能です。さらに,小規模生産品においては,手作業ではできないレベルの作業や品質を実現するための活用が期待されています。一例として,アクリルスタンドやアクリルキーホルダーなどに新たな表現・価値を付与することが可能です。このように工業分野に限らないアミューズメントや推し活グッズなどのコンシューマー分野での活用も期待されています。
私たちは,これからも技術革新と製品開発を通じて,産業界に新しい価値を届けるとともに,多様なニーズに応える最高のソリューション提供に努めてまいります。




ケミトロニクス事業部では,各種プラスチック基材や難付着基材である金属・めっき用の「塗料」と「コーティング剤」を開発し,これらは自動車内外装部品や家電製品,建材/住宅設備などに広く使用されております。様々な仕様の塗料やコーティング剤は,コア技術である「ポリマー設計技術」(基材への高い付着性保持),「カラーデザイン技術」(高意匠性付与),「レオロジーコントロール技術」(塗装作業性向上)を活かして開発されています。これまでに蓄積してきた膨大な基材や原材料とその配合情報,評価試験データなどを土台とし,それぞれのお客様が望む性能,意匠,塗装工法にカスタマイズした製品を提供することができます。
スプレー塗装やローラー塗装などの従来方法に代わる画期的な加飾方法として,型内塗装が現在実用化されつつあります。これに対応するため,既存の製品仕様とは大きく異なる仕様の製品開発が必要になってきています。これまで経験のない未知の要求仕様でも,3つのコア技術と知識をフル活用して,開発に挑戦しています。
近年,塗料や塗装品の製造・使用から廃棄までの過程で生じる環境負荷に目が向けられるようになり,その低減が課題となっています。当社も,2005年には低VOC,特定VOCレスなどの環境配慮型製品を,さらに最近では,カーボンニュートラル達成への貢献も強く意識し,非石油由来,省電力,工程短縮,長寿命をキーワードとしたReduce型製品を上市し,採用が進んでおります。このReduce型製品に加えて,さらにReuse,Recycleを実現できる3R製品として廃材の再利用や,複数のトリガーを重ねると容易に基材から剥離し,基材のリサイクルに寄与できる塗料の開発に注力しています。さらにペロブスカイト型太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー用材料や,機能性材料の開発にも今後着手する計画です。
当社製品をご採用されるお客様がサステナビリティへの貢献を実感していただけることを目指し,製品開発を進めて参ります。
